拝啓、悠人様

悠人様がこの手紙を読んでいる時にはもう私はこの世界にいないでしょう。
私がここへ来て一年…
悠人様に出会い、悠人様と過ごし、
そして悠人様に愛していただいたこと…
私にとって大切な思い出です。
悠人様にコスモスの髪飾りをプレゼントしていただきましたね。
無愛想な態度をとってしまってごめんなさい。
初めてプレゼントというものをもらってどうしていいのかわからなかったのです。
でも本当は毎日、鏡で見てしまうほど嬉しかったのです。
そして悠人様は私を一口も召し上がっていただけませんでしたね。
それは私のことを普通の女の子として見ていただいていたからなのですね。
そして食肉という存在の私と共に生きていくと言っていただいた時は、
とても嬉しくて幸せすぎて涙が出てしまいました。
でも悲しくもあったのです。
左手しか残されてなく食肉という身分の私と共に生きるのは
とても大変なことで悠人様に苦労をかけてしまうことでしょう。
私にはそれが耐えられません。

だから…
だから私は食肉として最後を向かえようと思います。
勝手な私を許してください。
そして辛い想いをさせてごめんなさい。
私はとても幸せでした。

試験もがんばってくださいね。
悠人様ならきっと大丈夫です。
前日は暖かくして風邪をひかないように。
ずっとずっと悠人様のことを見守っています。

ありがとう。そしてさようなら。

悠人様、愛してます…

s-0087


手紙にはいつも無口な彼女の想いが長々とつづられていた。
こんなに色んなことを話してくれるのなら文通でもすればよかったな…
なんて今更ながら思ってしまう。
でもそれはもう叶わぬ願いだった。
封筒にはもう一つ何か入っていた。
それは僕がプレゼントしたコスモスの髪飾り…
それを見ると彼女の無愛想な顔、少しかすれたハスキーな声、
そして最後に見せてくれた笑顔…
様々な彼女との過ごした時間を思い出せた。
涙があふれそうだった。
だけどグッとこらえる。
もう泣かない。
僕は今まで夢や目標など何もなかった。
でも初めて自分のやるべきことがここで見つかった。
彼女、s-0087への償い…
それはこの腐った世界を自分の手で変えてみせること。
何十年かかろうとも…
僕は固く決意をした。

このコスモスの髪飾りに誓って…







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