あれから一年の月日が流れた…

僕は今、アルバイトをしながら古びたアパートで生活している。
一年前のあの日、僕は父に勘当され家を出てそして大学も辞めた。

一年前、僕は親にハヤのことを紹介した。
そしてハヤと一緒になりたいということを話した。
しかし父はハヤの髪の色を見て食肉だったとわかると激情し僕と父は口論となった。
結局、父はハヤのことを認めてくれなかった。
そして僕はハヤを連れて家を出ることにしたのだった…

僕はアルバイトが終わると寄り道をせずにアパートへ帰る。
そして部屋のドアを開ける。
「ただいま」
と彼女に声をかけた。



「おかえりなさい、悠人さん」
僕とハヤは家を出た後、すぐに結婚した。
と言っても式や結婚指輪を買うお金もなく自分が情けなく思えた。
でもハヤは決まってこう言う。
「わたしにはこの髪飾りがありますから…」
その髪飾りをしているハヤはs-0087と瓜二つだった。

そして今、ハヤは僕の子をお腹に宿している。
金銭的に苦しい毎日が続くが、
それでも二人で一緒にいられること…
そして僕とハヤとの間に新しい命が生まれるということに何より幸せを感じた。

しかしたまにハヤは悲しそうな顔をすることがある。
僕が心配になってどうしたのかと聞くと
「悠人さん…
 わたしは幸せになっても良いのでしょうか…」
とうつむきながら話した。
ハヤは今でもミオのことを考えているのだろう。
そしてあの時からずっと自分のことを責め続けている。
自分がミオを裏切ったのだと…

あれ以来、レインとミオは僕達の前に姿を現さなかった。
そして他の食肉だったほとんどのaナンバー、bナンバーは
謎の死を遂げ、
sナンバーについては行方不明となっている。
そしてハヤを除いて「食肉娘」と呼ばれる少女達はこの世界から姿を消したのだった…

僕はあの時のレインのこの言葉が今も気になっている。
「私たちはもう人間に支配される立場じゃない、
 人間を支配する立場に生まれ変わったの」
一体、彼女たちは今どこで何をしているのだろうか…

僕は自分を責めるハヤを軽く抱き寄せ
「ハヤ…キミもそしてお腹にいるこの子も幸せになる義務があるんだ。
 それに僕が絶対に幸せにしてみせるから…」
「悠人さん…」
ハヤの肩が少し震えているのがわかった。
そしてハヤはお腹に目をやる。
「そうですね、もうわたしだけの命ではないのですよね
 この子の為にもしっかりしなくちゃ…」
そう言ってハヤはお腹を撫でる。

僕はハヤの髪飾りに目をやるとあの時のs-0087の言葉を思い出した。
「s-0088を…妹のことをお願いします」

結局、僕は食肉だった娘達を救うことはできなかった。
それでも僕はこの先、何があってもハヤと生まれてくる子供だけは守っていく。
それがs-0087の願いでもあるのだから…







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