「ハナ?」
僕はハナが閉じこもっているという押入れの前で声をかけた。
「………」
しかしハナの返事はない。
でもハナがこの中にいるというのは何となく感じられた。
僕は続けて話す。
「今日、ケンカしたんだって?」
「………」
またハナは何も答えない。
「とりあえずここを開けてもいいかい?」
「……ダメ」
ようやくハナの声が聞くことができた。
「ダメなの?」
「……ダメ」
ハナにもこんな頑固なところがあるんだなと思った。
「でもパパはハナのかわいい顔を見ないと仕事の疲れがとれないんだ」
少しわざとらしい言い方になったがハナの顔が見たいというのは本当のことだった。
「………」
ハナは何も答えない。
すると押入れの戸が少しだけ開いた。
これは戸を開けても良いということなのだろうか?
「ハナ…開けるよ?」
僕は再度、聞いて押入れの戸を少しずつ開けていく…



そこには三角座りをしたハナの姿があった。
額にはケンカをしたという象徴のばんそうこうが貼ってある。
「ハナ、出ておいで」
「……やだ」
ハナがここまで僕の言葉を拒むのは何か理由があるように思えた。
「じゃあここで少しパパとお話しようか」
とりあえず押入れの戸を開けてくれただけでも良しとして
僕はその場に座りハナに話しかけてみる。
「今日、ケンカしたんだって?」
「………」
少しだがハナの顔がムスっとしたように思えた。
「ハナでもケンカすることがあるんだね、少しびっくりしたよ」
少し明るくそう言ってみるがハナは何も反応しない。
「その男の子にケガさせちゃったって聞いたよ」
そう言うとハナは顔をうずめてしまった。
もう僕の話を聞きたくないということだろうか?
「でも僕はハナがやったことは評価するけどね」
「…?」
ハナが意外そうな顔をしてこちらを向く。
「だって大好きなママのことを言われたから我慢できなかったんだよね?
 それでハナが我慢する必要はないんだよ。
 もちろん男の子をケガさせたことはいけないことだけどね」
「パパ…」
「それにパパとママは何があってもハナの味方だから」
ハナがじっと僕の方を見つめる。
そしてハナの目に涙がたまっていくのがわかった。
「ハナ、おいで」
と手を差し伸べるとハナは僕の手をとり、そしてハナが僕の胸へ飛び込んできた。
ハナは肩を震わせ顔を僕の胸にうずめている。
「ハナ、自分の気持ちを溜め込まないで声に出して話してごらん」
僕がやさしくそう言うとハナは涙声で話し始めた。
「ぐすっ…ずっと…ずっと…変な髪の色って…変な目の色って…ぐすっ…
 わたし…ぐすっ…ずっと…我慢してた…ぐすっ…
 でも今日…ママも変だって言われて…ぐすっ」
「うん…うん…」
僕はうなずきながらハナが落ち着くまでずっと頭をやさしく撫でる。
ハナは今まで髪の色や目の色のことを自分から話すことはなかった。
今まで僕たちに心配をかけないようにと思ってずっと我慢してたのかもしれない。
それが今日になって爆発してしまったのだろう。
「ハナ…さっきも言ったけどハナが我慢することないんだよ。
 いつでもこんな風にパパやママにお話してほしいな」
「……うん…」
ハナは顔を上げ少し赤くなった目を僕に見せる。
「ほら、泣いてちゃかわいい顔が台無しだよ」
ハナにそう言うと僕は指で涙を拭ってあげる。
それから少し経つとハナは落ち着きを取り戻してきた。すると
「悠人さん、ハナ、夕食の支度ができました」
とそこでハヤが後ろから声をかける。
ハヤの目を見ると少し潤んでいるようだった。
きっと隠れて後ろで聞いていたのだろう。
「ハナ、お腹空いただろ、ご飯にしよう」
「…うん」
少し目は赤いがいつものハナに戻っていた。
「じゃあ行こうか」
と僕が立ち上がり座っているハナに手を差し伸べると
「パパ…」
とハナは僕を呼び止めた。そして

「ありがとう」

ハナは笑顔でそう言った…



←第一話   最終話→



戻る