彼女、s-0087が僕の家庭教師に就いてから早一ヶ月あまり…
彼女の教え方は驚くほどわかりやすく勉強が楽しいとまで思えるほどだった。
彼女の少しかすれたハスキーな声も心地良い。
しかし…しかしだ…
好きな女の子が丸裸で隣に座っているのは年頃の僕にとってかなりの拷問でもある。
僕は何か話でもして心を落ち着かそうとした。
「あのさ、何か趣味とかってある?」
「・・・」
「ほら、何か好きな本とか音楽とかさ」
「・・・」
「…ここがわからないんだけど…」
「そこはここの公式を…」
そう、彼女は勉強の事以外、何も答えてくれないのだ。
普段も無口で誰かと話している所など見た事がない。
そして今日も落ち着かないまま彼女との時間が終わってしまった…

次の日…
今日はこの間に受けた模試の結果が帰ってくる日だ。
過去ではほとんどの教科でE判定という散々な結果だった。
しかし今回は全てA〜C判定という驚きの結果がでた。
これは全て彼女のおかげだろう。
もちろん夢や目標などない僕にとって大学受験などどうでも良かったのだが、
この結果を口実に彼女に何かお礼ができると考えた。
しかし彼女は勉強の事以外、何も話してくれないので何に興味があるのか全く見当がつかなかった。
(とりあえずいつも裸というのは…)
そういう事で彼女に服をプレゼントする事に決めた。
僕はすぐに家に電話をして女性のメイドを呼ぶ。
なぜなら女の子が着る服なんてわからないし男の僕が買うのも変な目で見られると思ったからだ。

電話をして10分後、息を切らしてメイドが飛んで来た。
このメイドはs-0087を世話をしているメイドで
このメイドなら彼女の背丈やスリーサイズなど大体わかっているはずだ。
とりあえず事情を話しブティックへ連れて行き服を一緒に選んでもらう事に…
しかし女性の服に囲まれていると妙に居心地が悪く、途中からメイドに任せて僕は店の前で待つ事にした。
そこでふと目をやると路上でアクセサリーを売っているのに気が付く。
メイドもまだ時間がかかりそうだし時間つぶしに見に行く事にする。

そこにはネックレスやブレスレットといったアクセサリーが並んでいた。
色々と目をやっていくと一つの髪飾りが気になった。
それは銀でできたコスモスの花の髪飾りで
ふと思い出すとs-0087は前髪が邪魔みたいでよく髪をかき上げるしぐさをする。
ついでにこの髪飾りもプレゼントしようと思い買ってみた。
喜んでくれればいいけどなぁ…

「けっこうです」
家に着きs-0087にお礼と言って服を渡してみたが即答で断られた。
「気に入らなかった?」
「いえわたしは食していただく存在、服を着用する事は許されておりません」
「別にそんな事、気にしなくてもいいよ」
もちろん彼女を食べるなんて想像もできなかった。
「いえ」
「どうしても?」
「申し訳ございません」
これはどうやっても受け取ってもらえそうにない。
「じゃあさ」
といって僕はポケットから路上で買った髪飾りを取り出し彼女の髪へ取り付けた。
「…これは…?」
「服はダメだけど髪飾りくらいは良いんじゃない?いつも前髪を邪魔そうにしてたからさ」
「・・・」
沈黙。
何か悩んでいるようにも見える。
そして彼女が口を開いた。
「ありがとうございます…」
彼女が小声で返事をした。


この時、彼女が初めて微笑んだように思えた…





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