この日、僕は眠れなかった。
あの彼女の姿を目にしてから…

キーンコーン…
校内に終業のチャイムが鳴り響く。
急いで帰り支度をする。
僕は毎日、家へ帰るのが待ち遠しくなっていた。
それは彼女、s-0087に会うためだ。
いつもは夕食後に彼女に勉強を教えてもらう。
でも最近は勉強でわからない所があると言って彼女の部屋に行っている。
もちろんそれは彼女に会うための口実なんだけど。
今日もそのつもりで家路に着いた。
しかし部屋にs-0087はいなかった。
メイドに聞いてみると今日は違う仕事が入っているとのこと。
仕事?
少し気にはなったが今日は夕食まで部屋でゴロゴロすることにした。

それから夕食の時間…
意外にもそこにs-0087の姿があった。
いつもはテーブルに父と母と兄と姉、後ろにメイドと料理長が数名いるのだけど
どういう理由か今日は彼女も一緒らしい。
「悠人、この間の模試の結果、よかったらしいな」
突然、低い声で父が僕に話しかけてきた。
あまり父とは話をしない僕は少しびっくりした。
「ま、まあ…あ、でもそれはs-0087のおかげだよ」
と僕はチラッと彼女を見る。
いつもどおりの彼女がそこにいた。
「ふむ、高い金を出して買った甲斐はあったな。
 まあせっかくこの娘を買ったんだ、今日はこの娘でお祝いしようじゃないか」
お祝い?僕は父が何を言っているのか理解できなかった。
すると料理長がs-0087を抱えテーブルの上に乗せる。
「それでは旦那様、よろしいですか?」と料理長。
「ああ、やってくれ」
そう父が合図すると料理長は少し大きめ特殊な包丁を取り出した。
そして料理長は包丁を振り上げた。
何か悪い予感がしたその次の瞬間…

ダンッ!!

大きな音と共に彼女の足が飛ぶ。
いつも冷静な彼女の顔が悲痛にゆがむ。
それを見て兄や姉が料理長に向かって拍手をしている。
何だ…何なんだ…
僕は頭が真っ白になる。
ふと彼女をみると自分の足を持って僕に足を差し出した。



何でこんなこと…
「だっ、誰か救急車を!」
僕はわれに返り、取り乱しながらも後ろに立っていたメイド達に助けを求めた。
「?」
みんな不思議そうな顔をして僕を見る。
「みんな何でそんなに平然としてるんだよ!このままじゃ彼女が…!」
「さっきから何を言ってるんだ、こいつはただの食肉じゃないか」

食肉…
その言葉を聞いた時、初めて彼女、製品番号s-0087の存在を理解した。
彼女は人間じゃない。
人間の形をした食肉という存在なのだと…



←第二話   第四話→


戻る