僕はこの間のs-0087の姿を見て以来、無意識に彼女と距離をとってしまうようになった。
食肉という存在…
片足を失ってもいつも通りに勉強を教えるs-0087。
これが彼女にとっての常識なのだろうか?
そんな彼女のことばかり考えている僕は勉強どころではなかった…

それから二ヶ月ほど経ったある日、家に帰ると部屋からメイドに連れられるs-0087が出くわした。
s-0087は片足を失って以来、松葉杖を使い歩いている。
不意に僕は彼女達を呼び止めてしまった。
「どこ行くの?」
「おかえりなさいませ、悠人様。今日はこの娘の調理日となっておりますので調理室へ連れて行く所でございます」
僕はあの時…右足を切断されたs-0087の姿が鮮明に思い出しゾッとしてしまった。
「ちょ、ちょっと待って。彼女と話があるんだ。少し時間をくれない?」
「了承いたしました、それでは料理長にご報告しておきます」
そう言ってメイドは去っていった。

僕は話があると言って僕の部屋へ彼女を招きいれた。
特に話なんてなかったがとっさに言葉が出てしまった。
また彼女の苦しむ姿を見たくなかったから…
何を言えばいいのかわからずしばらく沈黙が続く。
彼女は静かにこちらを見ている。
「あ、あの…」
「はい」
「キミはまた今日、その…腕か脚を切られるの?」
こんなことを彼女に聞くのは何だか嫌な気分だった。
「はい、今日は右腕を調理していただく予定です」
「怖くない?」
「はい」
何一つためらわず淡々と答えるs-0087。
そんな彼女に僕は何ともいえない気持ちになる。
しばらく彼女を見つめ言葉をだした。
「キミはそれでいいの?キミの人生なんだよ?」
「私は食される存在、食していただく事が一番幸せなことなのです」
幸せ?食べられることが?
「で、でもこんなのって…」
僕は彼女の言葉に納得がいかずイラ立ちを感じていた。
またしばらく沈黙が続く。
そして…
「悠人様は何でそんなことを聞くのですか?」
彼女が初めて僕に話しかけた。
今まで彼女から僕に話しかけることなんてなかったのでびっくりした。
「な、何でってそれは…」
口ごもってしまう。
でもここで自分の気持ちを伝えなければきっと後悔する。
僕は決意をし勇気をだして口を開く。

「キミのことが好きだから」

「…」
彼女は黙ったまま…
僕は心臓が彼女に聞こえるんじゃないかと思うくらい高鳴る。
するとドアがノックされメイドが呼びかける。
「悠人様、そろそろお時間なのですがよろしいでしょうか?」
彼女は返事をしないまま松葉杖をつきそのまま部屋から出て行ってしまった。
このタイミングの悪さについメイドを睨んでしまう。
でも本当に彼女が答えたように食肉としての人生を送る事が彼女にとって幸せなのだろうか?
ただただ納得がいかないまま時間だけが過ぎていった…

それから夕食…
僕はまたあの光景を見ている。



指…手…腕…
彼女の右腕がどんどん切断されていく。
料理長はパフォーマンスと言わんばかりに彼女の苦しむ姿を見せつける。
僕は我慢できず立ち上がり父にやめさせるよう意見をしようとした。
しかし彼女が僕を見て小さく首を振る。
何で…
彼女が心配そうな目でずっと僕を見ている。
かなりの苦痛なはずなのにそれでも目で訴えかける彼女に僕はいたたまれない気持ちになる。
結局、僕は目の前でただ彼女の腕が切断されていく様を見ている事しかできなかった…

その後、彼女から告白の返事はもらえず教えられる者と家庭教師という関係が続いた。
そしてこの二ヵ月後、彼女の左脚が切断され調理されるのだった…



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