大学受験まであと一ヶ月。
僕は予感していた。
この大学受験が終われば彼女が食肉として処分されることを…

「今年はこの範囲が出題されると思われます」
s-0087が試験の予想範囲を説明している。
でもそんな話は僕の耳に入ってこなかった。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
s-0087は話を止め僕の方を向いた。
「前にキミに言ったこと、覚えてる?」
「…」
s-0087は何も答えない。
頭の良い彼女の事…僕の言おうとしていることに感づいているはずだ。
「この受験が終わればキミは処分される…」
「はい」
「僕はそんなの嫌だ」
「でもそれがわたしの役目ですから…」
「僕はキミが好きなんだ」
「…」
しばらく沈黙が続いた後、彼女が口を開いた。
「私は食肉という存在…悠人様のお気持ちにお答えできません…」
「そんなの関係ないよ、僕はキミとずっと一緒にいたい」
「…」
彼女がまた黙る。
「キミを失いたくないんだ!」
僕は感情の表れからか少し大きな声を出してしまった。
しばらく沈黙が続く。
そして彼女が口を開いた。
「私も…」
僕は驚いた。

彼女が泣いている…

僕は心配になってs-0087の肩を抱く。
止まらない涙を左手で拭いながらまた彼女が口を開く。
「私も…グスッ…悠人様…のこと…」
その言葉を聞いた瞬間、僕は彼女を強く抱きしめた。
そして彼女は僕の耳元でささやいた。

「愛してます…」

僕はそっと彼女に口付けをする。
彼女はまた涙を流しはじめる。
僕はこの時、気付いた。
今まで彼女は食肉として自分の気持ちをずっと我慢してたのだと。

その日の夜、僕は彼女と愛しあった。
s-0087は恥ずかしさからなのか指を噛み必死に声をおさえている。
そんな彼女がとても可愛らしく思えた。
何度も何度もキスをする。
彼女もそれに答えてくれる。
そのことが僕にとって何より嬉しかった。





それから…
s-0087は僕のとなりで寝ている。
目は開いているが何か考え事をしているように天井を眺めている。
少しの間、僕はその彼女の顔を眺めているとそれに気付き彼女と目が合う。
すると彼女は少し頬を染め目をそらした。
今までの冷静な彼女からはとても考えられなかった。
そんな彼女が可愛いらしくてついほほ笑んでしまう。
それから僕はずっと前から考えていたことを決心し彼女に話した。

「二人で逃げよう…」



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