僕はs-0087のことが好きで彼女も僕の気持ちに応えてくれた。
だけどこのことを誰に話しても許されないことはわかっていた。
食される存在である彼女を愛しているということ…
だから僕はs-0087とこの家を出て二人で生活していこうと決めたんだ。

朝…
今日は約束の日。
今夜、僕とs-0087はこの家を出る。
夕食後の勉強の時間だけが唯一、彼女と二人きりになれる時間で
その時間を使って二人で逃げるという計画をしていた。
とりあえず朝は感づかれないように普段どおりに学校へ行くことにする。
その前にs-0087の部屋に寄っていくことにした。

コンコンっとs-0087の部屋のドアをノックする。
「はい…」と少しかすれた小声で返事をする。
ドアを開けるとs-0087がベットで横になっている。
彼女はもう左手以外ないのであまり動くことはできない。
しかし残された左手を使い器用に体を起こした。
「おはようございます」
「おはよう」
いつもメガネをかけているs-0087だが今日はメガネを外していた。
メガネをかけている彼女は少し大人びた感じがするけど改めてよく見ると童顔なのに気付いた。
僕は彼女のとなりに座った。
彼女はあの約束をした日から少し元気がなかった。
彼女のことだから少しまだ僕のことを気にかけているのだと思う。
それでも僕は彼女を守ってあげたいと思う。
「今日、約束の日だから…」
「・・・」
彼女は静かに聞いている。
「今日の夜、この家から逃げよう。そして二人で一緒に暮らしていくんだ。
 豊かな暮らしはできないかもしれないけど僕は絶対にキミを守るから」
「・・・」
s-0087は少し涙目になりながらうつむいている。
「それじゃ学校に行ってくるよ」
「悠人様!」
めずらしく彼女が少し大きな声を出した。
その声に反応して彼女の方へ振り向いた時…

彼女が僕に口付けをする。
一分ほどの長い口付け。
この瞬間、この時間、時がとまれば…と願ってしまう。

そして別れを惜しむように唇が離れる。
彼女の顔をみる。
彼女が涙を流していた。
でも今まで見せたことのない笑顔がそこにあった。



いつも無口で冷静な彼女がそんな笑顔を見せるのは意外だったけど
とてもその笑顔は可愛らしくて好きになった。
僕は指で彼女の涙を拭ってその後、おでこにキスをする。
彼女は照れたようにまた笑顔を見せてくれた。
「いってらっしゃいませ」
「うん、いってきます」

なぜ彼女がこの笑顔を見せてくれたのか
この時、気付くべきだったんだ。
彼女…s-0087の決意を…



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