s-0087がいなくなってから半年…
目を瞑れば今でも彼女の姿が浮かんでくる。



その後、僕は大学に進学し法律の勉強をしていた。
でも政治家になって法律を変えられるまで何年…いや何十年かかるかわからない。
今にも食肉である彼女達が犠牲になっている事が僕には耐えられなかった。
何とかしなければ…
少し考えた後、僕は農林水産大臣である叔父に相談する事にした。
叔父は僕の父の弟に当たる人で父とは対照的に穏やかな人だった。
しかし数年前に娘の宮子ちゃんを亡くして以来、
国会の放送で観る事はあっても会って話す事はなかった。
食肉制度を廃止してほしいなんていきなり言って承諾してくれるとは思わない。
それでも僕は彼女とこのコスモスの髪飾りに約束したんだ。
この世の中を変えるという事を…

それから僕は叔父の家の前まで来ていた。
少しためらったが勇気を振り絞ってインターフォンを押した。
その後、メイドが出たので甥である僕の事を話し家へ入れてもらい、
そしてそのまま叔父の部屋の前まで連れて行ってもらった。
僕は深呼吸をして心を落ち着かせてからドアをノックした。
「はい…」
低くもどこか寂しげな返事が返ってきた。
僕はドアを開け叔父の部屋へ入った。
宮子ちゃんが亡くなって以来、叔父は明らかにやつれ細っていた。
しかしここ最近になってより一層、痩せたように感じた。
「悠人君か、大きくなったね」
叔父の変わりように少しためらったが僕は自分の想いを伝えた。
僕がs-0087に出会った事…
彼女達は人の心を持っているという事…
彼女達にも生きる権利があるという事…
そして農林水産大臣である叔父にこの食肉制度を廃止してほしいという事を…

話し終えた後、しばらく沈黙が続いた。
今日が駄目でも明日も明後日も毎日でも頼みに来るつもりだった。
「わかった、何とかしよう」
僕は耳を疑った。
こんなに簡単に承諾してもらえるとは思っていなかったからだ。
「なんで承諾してくれたのですか?」
僕は意外な叔父の返事につい聞き返してしまった。
しかし叔父は苦笑いをし黙ったまま答えてくれなかった。
「今日は帰ってくれないか」
そう言われて仕方なく僕は一礼をして部屋を出ようとしたその時、
「これであの娘の罪滅ぼしになるのなら…」
と小声で叔父がつぶやくのが聞こえた…

その数ヵ月後、約束通り人型による食肉制度は廃止される事となった。



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