あれから施設に警察が到着した後、僕達は病院へと運ばれた。
僕は幸いどこも異常はなかったがs-0087に瓜二つの少女は顔と腹を打撲…
そして僕が間一髪で助けた小さな少女は精神的にダメージを受けているようだった。
そして一番ショックだったのが施設の娘達が全員死亡が確認されたことだ。
僕は居た堪れない気持ちでいっぱいだった…

僕はその日に退院となったが彼女達はしばらく入院するようだった。
僕は少し警察の事情聴取を受けた後、家へと戻った。
家に着いた時はもう夜の10時を過ぎていた。
僕は部屋に戻りベットに横になった。
あのs-0087にそっくりな娘は一体…
その夜、その娘のことが頭から離れず寝付けなかった。

次の日。
僕はさっそく昨日の病院へと向かうことにした。
もちろんそれは彼女に会うためだ。
会って確かめたいことがあった。

病院へ着き受付窓口で彼女達の部屋を教えてもらいその部屋へと向かった。
そしてその部屋の前まで来た時、
「いやああああ!!!」
と子供の叫び声が聞こえてきた。
何事かと思いドアを開け部屋を覗くと



僕が助けた小さな少女がs-0087に瓜二つの少女にしがみついている。
その近くには白衣を着た医師らしき人と看護婦が立っていた。
「もう少し落ち着いてから診察することにしましょう」
と医師らしき人がやさしい口調で話し部屋を出ていった。
「あら、あなたは?」
と出て行く時に看護婦さんに声をかけられた。
その声にs-0087に瓜二つの少女は僕に気付いた。
彼女は小さな少女がしがみついて身動きが取れないようだった。
「いえ、何でもないです」
と看護婦さんに答え僕はしばらく時間をおくことにした。

僕は缶コーヒーを買ってしばらくロビーの長椅子に座りで時間を潰していた。
そして数分経った頃、
「あの…」
と後ろから声をかけられた。
振り返るとs-0087に瓜二つの少女が立っていた。
「昨日は助けていただいてありがとうございました」
と彼女は丁寧にお礼を言った。
「いや結局、僕は何もできなかった」
「そんなこと…ないです…」
実際、彼女と小さな少女以外、助けることはできなかった。
本当に自分の不甲斐なさが腹立たしかった。
「あ、何か飲み物でも買ってこようか?」
「結構です」
昨日は取り乱していたがこういう風に冷静に受け答えできるところは本当にs-0087に似ている。
「それじゃ少し話を聞かせてもらっていいかな?」
「はい」
彼女をとなりに座らせた。
「さっきの子は大丈夫?」
「今は泣き疲れて眠っています。
 しかし昨日のことで普通の人間の方に恐怖心を抱いてます」
「それでさっきあんな声を…キミは大丈夫なのかい?」
「わたしは…やはり少し人間の方が怖いです。
 でもa-0217やわたしの為に犠牲になったみんなの分まで生きなくてはいけません。
 それに残されたあの子、s-0300をわたしが守っていこうと思ってます」
あんな目にあってここまでしっかりしている彼女はすごいと思った。

そして僕は一番気になっていた事を彼女に聞いた。
「キミの名前は?」
「わたしの名前ですか?」
「あ、ごめん、自分から名乗らないといけないよね。
 僕は悠人、月永悠人、いまは大学で法律の勉強をしてるんだ」
「わたしはs-0088です」
「s-0088…」
やはり…そうなのだろう。
彼女はs-0087の妹…これだけ似ているから双子なのかもしれない。
「あ、あの…」
「ああ、ごめん、何?」
ジロジロと彼女の顔を見てしまっていた。
「わたし、働きたいのです」
「働く?」
「わたしは数日で退院できます。
 ですがあの子、s-0300はしばらく入院が必要です」
「その入院費をキミが払うと?」
「はい」
確かに国から食肉だった彼女達に一切、費用は出ない。
こういう入院費など全て施設から出すようになっている。
しかし彼女の施設は今はもぬけの殻となっている。
そうなると費用を払うのは自分自身かまたどこかの施設に入らなければいけないことになる。
今の彼女達にまた施設に入れというのは酷な話だ。
「僕が代わりに払っておくよ」
彼女が不思議そうにこちらを見る。
「何で…ですか?」
キミがs-0087の妹だから…愛した女性にそっくりだから…とは言えなかった。
「僕は食肉だった娘達を支援する団体に入っているんだ。
 だからキミ達だけが特別ということではないんだよ」
支援する団体といっても僕と叔父さんの二人だけで
今は叔父さんが入院しているので実質、一人で活動している。
「そう…ですか」
少し彼女の顔が悲しそうに見えた。
「でもキミが働きたいというのなら僕は手助けするよ」
「ありがとうございます」

僕はこうして彼女の働き先を探すこととなった。
でも本当は彼女とまた会うきっかけがほしかっただけなのかもしれない…



←第六話   第八話→

戻る