わたしがメイドとして働くことになって一ヶ月が過ぎようとしていた。
仕事は大変だけどやりがいがあって人として生きてるんだと実感するようになった。
何より悠人さんがいつも気を使って声をかけてくれる。
それがとても大きな支えとなっていた。
そしてわたしは悠人さんのことを想うといつしか胸が高鳴るのだった…

夕方の休憩時間、いつものように三人でミオの病室で過ごしていた。
「今週の日曜日、三人でどこか遊びに行こうか」
「遊びに…ですか?」
「うん、たまには息抜きをした方がいいと思ってね」
こういう悠人さんのやさしさがとても嬉しかった。
「でもわたし、メイドの仕事があるので…」
「ああ、僕の方からメイド長に話しておいたから大丈夫だよ」
「あ…ありがとうございます」
「じゃあ僕はこの後、用事があるから先に帰るね」
「はい、お気をつけて」
悠人さんが部屋を出ていく間、わたしはずっとその背中を見入っていた。
「お姉ちゃん」
ミオの声に我に帰った。
「何?」
「わたし、行かないです…」
「…どうして?せっかく悠人さんが誘ってくれてるのに…」
「なんで人間なんかと仲良くしなくちゃいけないですか?」
人間なんかと…わたしはその言葉に少し動揺した。
「あのお兄ちゃんもきっと悪者です」
「そんなことない」
「人間なんてみんな一緒です」
「ミオ…」
「なんであのお兄ちゃんをかばうですか?」
「かばってなんか…」
「友達もa-0217お姉ちゃんもみんな人間に殺されたです」
「…だけど悠人さんはあの人たちとは違う」
「お姉ちゃんはだまされているのです、きっとあのお兄ちゃんもわたしたちを殺そうとしているにきまってるです」
「ミオ、そんなこと言っちゃダメ」
わたしは少し強い口調で言った。
するとミオは立ち上がり
「なんでですか!あんなやつ、だいっきらいです!だいっきら…」

パンッ…という音が病室に響いた。



ミオは信じられないような顔をしてわたしの顔を見ている。
わたしがミオの頬を平手打ちしたのだ。
「うっ…うっ…」
そしてその後、大声で泣き出した。
手を上げたのはやりすぎたと思っている…
でもあれだけわたしたちによくしてくれる悠人さんのことを悪く言うことが許せなかった。
悠人さんがいなければ今頃、わたしたちはどうなっていたかわからない。
ミオにそのことをわかってもらいたかった。

その日からミオはわたしとも全く話をしてくれなくなった…
 



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