明日は日曜日。
悠人さんとミオと三人で出掛ける日だ。
だけどわたしは少し憂鬱に感じていた。
それはあれからミオが口を開いてくれなくなったからだ。
昨日までずっとぶった理由についてミオに説明していた。
しかしまったく相手にしてくれなかった。
わたしはこんな時どうすればいいのだろう…
a-0217ならどうするのだろう…
無口で無愛想なわたしをいつも助けてくれていたa-0217。
でも彼女はもういない。
わたしが何とかしなければいけないんだ。

わたしはミオの前に座り手を握った。
「ミオ…」
ミオは少し驚いたようだがすぐにソッポを向いてしまった。
どうすれば…
このまま少し沈黙が続いた。
すると何かがわたしの頬を伝った。
「…ハヤお姉ちゃん…?」
ミオが心配そうな顔でわたしの顔を見つめている。
わたしは頬を手で拭った。



これは…涙…?
わたしは驚いた。
なぜなら自分の涙を見たことがなかったからだ。
今までどれだけ辛くても泣いたことはなかった。
そのわたしが涙を流すなんて…
「どうしたのです?どこか痛いのですか?」
ミオが少し困った様子でわたしに話しかける。
「ううん、なんでもない」
わたしは涙を拭いながら答える。
でもミオが口を開いてくれたことに気付くとまた涙があふれてきた。
「ミオ…ごめんね…」
「………」
しばらく沈黙があったあと
「ご…ごめん…なさい…」
とミオがいつものように泣きながら答えた。

それから少し落ち着いてきてミオが話しだした。
「本当はわたし…悠人お兄ちゃんのこと、嫌いなんかじゃないのです」
「…そう」
「わたし、ハヤお姉ちゃんが悠人お兄ちゃんに取られてしまうんじゃないかと思ってたのです。
 それで一人ぼっちになっちゃうんだと思って…」
確かに最近、メイドの仕事が忙しくミオのことをかまってあげることが少なくなっていた。
「ミオ、わたしたちはずっと一緒だから…」
わたしはミオをやさしく抱きしめた。
この先、ずっとこの子を守っていこう…
わたしはそう誓った。

次の日。
「メイド長、それでは今日一日、お休みさせていただきます」
メイド長がわたしの顔をジッと見ている。
「あの…なにか?」
「いえ、あなたがここに来てから悠人坊ちゃんの顔色がよくなったと思ってね。
 この間まで何かにとり憑かれたような顔をしていたから…」
「そう…ですか」
「これからも悠人坊ちゃんをよろしくしてくれるかしら?」
「はい、よろこんで。悠人さんは恩人ですから…」
「そう、よかった。それでは楽しんでいらっしゃい」
「はい、失礼します」

わたしは悠人さんと一緒にミオを迎えに病室へ向かった。
「今日は遊園地に行こうと思うんだけど大丈夫かな?」
「はい、きっとミオも喜ぶと思います」
「今日はハヤにも楽しんでもらわないとね」
「ありがとうございます、悠人さん…」

ミオの病室に着きいつものようにドアを開ける。
「ミオ」
返事がなかった。
病室を見渡すとミオの姿がなかった。
いつもならベットの上で本を読んでるのに…
「どこに…?」
わたしは病院中を探し回った。
中庭や受付で聞いてもわからなかった。

ミオはその日から忽然と姿を消してしまった…
 



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