私が入院をして早三ヶ月…
食肉制度を廃止してからは様々な所から非難の声が上がり
その対応の忙しさに私は倒れてしまった。
しかし未だに問題が山積みでそれを悠人一人に任せている。
私も早く体調を戻し彼を助けなければ…

その時、コンコンッとドアをノックする音が聞こえた。
もう夜の消灯時間を過ぎていた。
「誰だ?」
ドアが開きそこにいたのは髪の長い白髪の女。
私はその顔に見覚えがあった。



「サキ君…?サキ君なのか?」
「お久しぶりです、旦那様」
「今まで一体どこにいたんだ?」
食肉制度廃止後、彼女は忽然と姿を消していた。
私はそのことが気になっていた。
「食肉制度を廃止したのは旦那様の意志ですね」
「…ああ」
真っ直ぐな髪、透き通るような白い肌…
彼女は相変わらず美しかった。
「キミたちには辛い思いをさせた、サキ君、いや…」
私は彼女の本当の名前で呼ぶことにした。
「s-0001…」
彼女もまた食肉として生まれた存在。
そして科学者だった私が作ってしまった存在なのだ。

あれは私が科学者としてクローン技術の研究をしていた頃…
元々は人間の細胞からクローンを作り医療の役に立てるというのが当初の目的だった。
倫理に反することだと思ったがその時の私は上の言うことに従うことしかできなかった。
しかしこれは仕組まれていた。
クローン技術が成功する頃には食肉制度ができ彼女たちは食肉として存在することとなったのだ。

aナンバー、bナンバーと細胞から繁殖させていったがそのクローンの寿命は長くても20年で尽きることがわかった。
それから実験が繰り返されとうとうできた…いやできてしまったのがs-0001だった。
s-0001は女性ながら男性器を持ち人間のように性交をすることができた。
そこから生まれてくる子供は鮮度が高く寿命も長い、何よりs-0001のように学習能力に優れていた。
そして彼女はその頭脳の高さから繁殖用とともに食肉を教育する存在として育てられたのだ。

「いえ私は旦那様に作っていただいたことを感謝しているのですよ」
「キミたちはもう食肉という存在ではない、人間なんだ。
 これからは私も支援させてもらう、だから…」
「旦那様、ありがとうございます。
 あなたは他の科学者とは違い私を娘のように可愛がってくれた…
 私もあなたのことを父のように慕っていました」
「今でも娘のように…」
「嘘です」
s-0001の顔つきが変わった。
「私は気付いたのです。
 私は宮子お嬢様とは違うと…本当の娘にはなれないと…
 私は宮子お嬢様が羨ましくて仕方ありませんでした。
 そしてこう思ったのです、宮子お嬢様が消えたら私を娘にしていただけるんじゃないかと…」
「何を言っている…?」
「フフ…まだわからないのですか?
 宮子お嬢様を事故に見せ掛けて殺したのは私なのですよ」
「何を馬鹿なことを言ってるんだ」
私は少し強い口調で言い返した。
すると彼女は微笑み
「簡単なことですよ、お嬢様を送り迎えする車のブレーキに細工をしただけです。
 さすがにここまで簡単にいくとは思いませんでしたが」
私は彼女のいうことを信じることができなかった。
s-0001がそんなことを思いそしてこんな残酷なことをするなんて…
「旦那様、b-0338の肉はお口に合いましたか?」
「一体何を…」
「b-0338は宮子お嬢様によく似ていたでしょう?」
「ま、まさか…」
「そうです、あのb-0338は私がお嬢様の細胞から作ったクローンなのです」
「そんな…」
私はその言葉を聞いた時、頭がどうにかなりそうだった。
そんな時、s-0001が寄り添い
「旦那様、宮子という娘はいなかったのです、ただの「食肉」だったのです」
s-0001は私の耳元で一言一言、洗脳していくようにささやく…
「旦那様、私と…いえ私たちと共に来てください、そして私たちの父になってください」
私は…s-0001と…一緒に…
「そうだな、キミの言うとおりだ…」
「旦那様」
「キミは私の娘なんかじゃない、私の娘は宮子と…
 そしてb-0338だけだ!」
そう私は彼女に叫び突き飛ばした。
彼女はしばらくうつむき
「そうですか…残念です」
そう言って彼女は懐から拳銃を取り出し

「さよなら…お父様…」

こう最後につぶやき私を撃った…
 



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