ミオが消えてなってから一週間…
ハヤはメイドの仕事を休み一日中、ミオを探し回っている。
この一週間、ハヤはほとんど食事もとらず僕は心配だった。

そしてその間に二つの殺人事件が起こった。
一つ目は叔父が入院先の病院で殺されたこと。
死因は胸部に銃弾を受けたことによる失血死だった。
どうして叔父が殺されなければならないのか…
食肉制度廃止反対派の仕業だとうわさされている。
その食肉制度廃止をお願いした僕は責任を感じていた…

そして二つ目はハヤとミオがいた施設のあの男職員二人が殺されたのだ。
こちらは腕や足など数箇所を切断されており悲惨な殺人現場となっていたらしい。
なぜこの二人がこんな殺され方をされたのだろうか?
そしてこの二つの殺人事件…
ミオが消えたことと何か繋がりがあるように思えた。

僕は気持ちを切り替えることができないまま、とりあえずミオを探しに行こうと立ち上がった。
その時、ドアからノックが聞こえメイドが僕宛に手紙が届いていることを伝えた。
僕はその手紙を受け取り宛先を確認した。
しかしその手紙に宛先など記載されてなくただ「悠人様へ」としか書いてなかった。
僕はその手紙をすぐに開けた。
その手紙にはこう書かれていた。

「今夜19時にs-0088と二人でA公園まで来てください。」

これはミオと何かしら関係していることだろうと思った。
それは僕のまわりでs-0088という名前を知っている人物は限られているからだ。
僕はその時間、ハヤと二人でA公園へ向かうことにした…

約束の時間、僕はハヤと二人でA公園に立っていた。
A公園の敷地は広く昼間は子供の声でにぎわうが
夜になると薄暗い外灯の灯りだけでまったく人気がない場所となる。
ハヤはミオのことが心配なのか少し落ち着きがないように見えた。
その時、後ろの方から足音が聞こえてきた。
外灯の灯りで徐々に顔を見えてくる。

「久しぶりね、悠人坊ちゃん、s-0088」
そこにいたのは昔、僕の家にs-0087を連れてきた女性だった。
そしてもう一人、その後ろにいたのは…
「ミオ!」とハヤが叫んだ。
一週間、姿を消していたミオの姿がそこにあった。
「サキ先生…」
ハヤが女性の名前を呼ぶ。
「もうその名前は捨てたわ、今はレインと呼んでもらおうかしら?」
「どうしてミオがあなたと一緒にいるのですか?」
「ミオ…ああ、s-0300のことね。
 それはこの娘が私たちの大事な組織の一員だからよ」
「組織…?」
「私たちはもう人間に支配される立場じゃない、
 人間を支配する立場に生まれ変わったの」
レインという女が淡々と話し出す。
「もうかつてのsナンバーは集り組織はできあがりつつあるわ、
 そしてs-0088…あなたも私たちの組織の一員として一緒に来るの。
 あなたも人間を憎む理由があるでしょう?」
確かに彼女たちは施設でのこと、
いや食肉として扱われていたことが人間を憎む理由になっているのかもしれない。
僕はハヤの方を見る。するとハヤは
「いえ、わたしは人間の方を憎んだりなんかしていません。
 確かにわたしたちは人間の方にとても傷つけられました。
 でもそれ以上に悠人さんにお世話になり、
 今ここにわたしがいるのは悠人さんのおかげなんです。
 わたしは悠人さんを…人間の方を信じようと思うのです」
僕はハヤのその言葉が嬉しかった。
しかしレインは
「戯言だわ」
と少し強い口調で言い返す。
「それに人を支配するだなんてきっと間違っていることだと思います。
 ミオにもそんな娘になってもらいたくないです」
ハヤがミオに手を差し伸べる。
「ミオ、帰ろ」
しかしミオはその手を振り払った。
そしてずっと黙っていたミオが話し出す…
「ハヤお姉ちゃん、わたし、みんなの仇をとったです」
「仇…?」
「先生にあの施設のおじさんたちを捕まえてもらって、
 みんなが殺されたように今度はわたしがおじさんたちを殺したのです」
とてもではないがミオにそんなことができるとは思えなかった。
「みんな、あのおじさんたちにいっぱいひどいことされたです。
 みんな、すごく痛くて辛くて苦しんで死んでいったです」
「そうね…」
ハヤもその時を思い出したのか少し悲しそうな顔をした。
「だからすぐに死なないようにゆっくりゆっくり苦しめて殺したです」
「ミオ…?」
ミオは不気味に微笑みながら残酷なことを話し始めた。



「指を一本切り落とすごとに大きな悲鳴を上げて
 最後は泣いておしっこ漏らして小さな声で助けて助けてって言ってたです」
「ミオ…もうやめて」
「何でですか?
 みんなが手や足を切られた痛みをおじさんたちにも味わってもらっただけですよ?」
そこにいるミオは一週間前のミオとまるで別人だった。

「ミオに何をしたの…」
ハヤがレインを睨みつける。
「別に何もしてないわ、ただこの娘に本当の自分の気持ちを気付かせてあげただけ。
 そしてもう一つ、あなたが人間を恨まなければいけない理由を教えに来たの」
「わたしは人を恨んだりなんかしない」
「よく聞きなさい、s-0088。
 あなたは悠人坊ちゃんに恩を感じているみたいだけど、
 あなたの双子の姉・s-0087を食したのは悠人坊ちゃんとその家族なのよ」
「嘘です」
「何ならそこにいる悠人坊ちゃんに直接、聞いてごらんなさい」
ハヤがゆっくりとこっちを見る。
「そんなはずないですよね?」
この時、僕は気付いた。
この為にレインは僕をここに連れてきたのか…と。
「悠人さん?」
僕はハヤの目が見られなかった。
僕はs-0087を愛していた…
僕だけはs-0087を食していない…とでも言えば良いのだろうか?
だけど僕は結局、彼女を助けることができなかった…
ただ食されていくのを見ていることしかできなかった…
「三日後、またこの時間にここで待ってるわ。
 三日間、よく考えなさい。
 あなたの敵は一体誰なのかを…」
そう言ってレインとミオは去っていった。

しばらく僕とハヤはそこに立ち尽くしていた。
そしてハヤが僕に確認する。
「本当なのですね…」
僕はうなずくことしかできなかった。
彼女はきっと裏切られた気持ちでいっぱいなのだろう…
「わたしを助けてくれたのは姉のことがあったからなのですね…」
「違う!僕は…」
だけどそこから言葉にできなかった。

その日、僕とハヤはそれ以上、何も話すことができなかった…
 



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