僕は一体どこへ向かっているのだろうか?





長い長い廊下を全力疾走で走っている。





息は切れ何度も転びそうになる。





それでも僕は走ることをやめない。





そして扉が見えてくる。





僕はその扉を勢いよく開けた。





………





……

















………。
カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。
寝起きは最悪だった。
これは汗なのか涙なのか…
枕とシャツがびっしょりと濡れていた。

何でこんな夢を…
その夢はまるであの時のことを思い出させようとしているようだった。
僕はそのことで一気に不安に襲われた。
「ハヤ…」
僕はすぐに立ち上がり部屋を出た。
ハヤの部屋に向かうのだ。
長い廊下を走る。
僕は頭にあの時の映像がよみがえってくるようでまた不安になった。

僕はハヤの部屋へ着き勢いよくドアをノックする。
「ハヤ!」
僕はかなり取り乱しており何度もドアを叩いた。
するとゆっくりドアが開く。
そこには私服を着たハヤの姿があった。
「ハヤ…」
僕は安心すると腰が抜けたようにしゃがみこんでしまった。
「悠人さん…?」
ハヤが心配そうに声をかける。
「ごめん、何でもないんだ…」
自分でもこんなに取り乱してどうかしていると思った。

ハヤはあれからも僕の家でメイドとして働いている。
しかし姉であるs-0087がこの家で食肉として食されたことを知ってしまった彼女とは
うまく口を交わすことができなかった。

あの時、レインは言った。

「三日後、またこの時間にここで待ってるわ。
 三日間、よく考えなさい。
 あなたの敵は一体誰なのかを…」

そして今日はその三日後。
ハヤは彼女たちと一緒に行ってしまうのだろうか…
僕に今、できることは…

僕はあの頃のことを彼女に打ち明けることに決めた。
「s-0087のことで話があるんだ」
「………」
彼女はしばらくうつむいてから
「入ってください…」と言った。
時計を見るとまだ朝の六時ということに気付いた。
部屋を見回すと綺麗に清掃され物など何もなかった。
ベットの上にはメイド服が綺麗にたたまれている。
それは今日この家を出て行くということが感じられた。

彼女はベットに腰掛け僕はその正面にある椅子に座った。
僕はハヤの目を見て口を開いた。
「キミの双子の姉、s-0087はレインが言ったとおり食肉として…
 そして僕の家庭教師としてここに来たんだ」
ハヤは僕と目を合わせようとはしない。
「そしてここで食肉としての最後を…」
僕はそこで声がつまってしまった。
するとハヤは
「元々、わたしたちは食肉として育てられ食されるために生きてました。
 だからわたしは悠人さんを責めるつもりはないのです」
と僕に目を合わせず話した。
「姉は悠人さんに美味しく食べていだだけましたか?」
僕はそのハヤの言葉にしばらく答えられなった。
でも決心して言葉を出した。
「僕はs-0087を食せなかったんだ…」
「なぜですか?」
そのハヤの口調は少し強く感じた。
「僕は彼女のことを愛していたから…」
ハヤは驚いたような顔をしてその後、うつむいてしまった。

僕はそれからs-0087と過ごした日々のことを話した。
彼女に勉強を教えてもらったこと…
彼女にコスモスの髪飾りをプレゼントしたこと…
彼女と家を出て一緒になろうとしたこと…
そして…彼女は自ら食肉としての最後を選んだこと…

「僕は彼女を助けることができなかった。
 あんなに愛していたのに助けることができなかった…」
しばらく部屋に沈黙が続いた。
そして彼女が僕に小さな声で聞いた。
「姉さんのことをまだ…愛しているのですね…」
「…ああ…」
そう答えると彼女は立ち上がり部屋を出て行こうとした。
「ハヤ!」
僕は彼女の細い腕を掴んだ。



彼女の目から涙がこぼれた。
僕はとっさに腕を離してしまった。
そしてハヤは
「今まで…ありがとうございました…」
と涙声でそう言い残し部屋を出て行った。

僕は追いかけられなかった。
あの涙…

僕はこの時に初めて彼女の気持ちに気付くのだった…



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