あれから家から飛び出したわたしはずっとあのA公園のベンチに座っていた。
その間、ずっと悠人さんのことを考えていた。
わたしは悠人さんのことがずっと好きだった。
でも悠人さんは姉さんのことを今でも想っている。
そんなわたしはもう悠人さんの所には帰ることはできない。
もうわたしには帰る場所はないんだ…
そう想うと胸が締めつけられるように苦しくなった。

午後七時、約束の時間…
「ハヤお姉ちゃん!」
とミオの元気な声が聞こえた。
振り返るとミオがわたしに勢いよく抱きついてきた。
後ろにレインの姿も見えた。
「やっぱり来てくれると思ってたです。
 ちゃんとわたしとの約束を守ってくれたです」
「約束…?」
「忘れたですか?あの時、言ってくれたです。
 わたしたちはずっと一緒だからって…」
そう、施設で残されたミオだけはわたしがずっと守っていこうと誓った。
でも…

「さあ帰りましょう、私たちの居場所へ…」
レインが笑顔でわたしに言った。
でもなぜかその笑顔が不気味に感じられた。
「ハヤお姉ちゃん」
ミオもわたしの手を引く。
でも足が思うように進まなかった。
わたしは何をためらっているのだろう…
わたしは…

その時、後ろからこちらへ誰かが走ってくるのがわかった。
そしてわたしの名前を呼んだ。
わたしは振り返らなくてもそれが誰なのかわかった。
わたしは心のどこかで待っていたのかもしれない。
悠人さんを…

悠人さんはここまで走ってきたのか息が切れていた。
「ハヤ、ごめん…
 ずっとキミの気持ちに気付けなくて…」
わたしは悠人さんの顔が見れなかった。
「僕は今でもs-0087のことを想っている」
そう話しながら悠人さんはわたしの目の前まで歩いてくる。そして…
「でも今は同じくらいキミのことが大事なんだ、
 すぐにキミの気持ちを受け入れるのは無理かもしれない…
 けど…」
悠人さんがわたしに手を差し伸べた。

「僕はこれからもキミと一緒に生きていきたいんだ」

「悠人さん…」
わたしも…
わたしもこの人と一緒に生きていきたい…
その差し伸べられた悠人さんの手を握り締めた。
その悠人さんの手を握ってから心の中で安心している自分に気付いた。
「ハヤ…帰ろう」
「…はい…」
わたしはこの時、自分の気持ちに素直になろうと決めたのだった。

そして悠人さんはもう一方の手をミオにも差し伸べる。
「ミオ、キミも一緒に帰るんだ」
ミオは何も答えない。
「ミオ…」
わたしも声をかける。
するとミオは
「悠人お兄ちゃん」
ミオが笑顔で悠人さんの名前を呼んだ。
しかしすぐに表情が変わり
「悠人お兄ちゃんってやっぱり…」



「邪魔です」
パンッ…と乾いた音が響いた。

わたしの手から悠人さんの手が離れていった…




←第十四話   第十六話→

戻る